2020.03.31

お客さまに喜ばれ続けるために「OYO LIFE」がやっていること

“実践論”としてのカスタマーサクセス。『Success4』開催記念対談 Vol.10

あらゆる業種のサービスが「売って終わり」ではなく、「いかに使い続けてもらうか」を重視するように変わっていく。そんな時代に現れた新しいコンセプト、「カスタマーサクセス」。しかし、実際に事業に取り入れる難しさを感じている方も多いのではないでしょうか。本連載は、カスタマーサクセスを推進する識者にお話を伺い、そのヒントを探るシリーズです。

第10回の当コラムでは、インドで創業したOYO Hotels & Homesのグループ会社で、"スマートフォンひとつで物件探しから入居・退去が完結する賃貸サービス"を手がけて、不動産業界に革命を起こすOYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN株式会社(以下、OYO LIFE)代表・山本竜馬氏に、顧客志向のビジネス実践のヒントを聞きました。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

執行役員
デジタルトランスフォーメーション領域

八木 克全

OYO LIFE
代表・Country Head

山本 竜馬

お客さま主義を貫くと、必ずぶつかる2つの壁

八木克全(以下、八木) : ちょうど昨日、日本初のカスタマーサクセスカンファレンス『Success4』の主催社であるサクセスラボ代表の弘子 ラザヴィさんとお会いしまして。

日本におけるカスタマーサクセスは今後、メーカー側の「モノを絡めた形のデジタルサービス」が、アメリカと比較しても、かなり伸びてくるんじゃないか。特に不動産、家具、自動車などのデジタルサービスは、日本のほうがより急速に盛り上がっていくのでは、と予測されていました。

そこで、日本発で「暮らしのサブスクリプションサービス」を進める、OYO LIFEの名前も挙がりまして。不動産を"所有"から"利用"へ、スマホ一つで引っ越しが完結する時代へ、大きなビジネス転換を仕掛けられていますよね。

八木克全(電通デジタル)

山本竜馬(以下、山本) : はい。ほかにも事業開始当初から、入居者向けにカーシェアリングや家事代行などを行う、OYO PASSPORTというサブスクリプションサービスを提供しています。

八木 : まさに、利用にまつわるサービスですね。

そもそもお客さまは、買うときではなく、使っているときに価値を感じるものですし、企業側も本来、その価値を提供するために企業活動をしていると思うんです。でも事業に取り込むのはなかなか難しい。

そこでこの連載では、先進的に顧客視点のビジネスに取り組む企業の皆さんに、実践のヒントをお聞きしています。

今日はまず、『Success4』において、日本でのカスタマーサクセスの将来指針を考えて発信しようという呼びかけでクローズドに行われた、「エグゼクティブ・ラウンドテーブル」について。

われわれは同じテーブルでディスカッションをご一緒しましたが、そこで印象に残ったキーワードを話すことから対談を始められたらと思っています。

山本 : ラウンドテーブルでは、まったく異なる業界のリーダー同士で話をしたので、必然的に、お互いが持っている"顧客"だったり、"価値"だったり、共通したトピックだけを議論できたのが、非常に有意義で面白かったです。

八木 : そうでしたね。

山本 : 例えば、私は賃貸業界ですし、メルカリの田面木宏尚さんはフリマ業界ですし、ほかにもいろいろな業界の、いろいろな視点がありました。ただ、やはりどの視点で捉えても、顧客に何を提供するのか、データやテクノロジーを使って何をするのかに関しては、考え方は共通するとも感じました。

その上で、あるべき姿を作ることは、じつはそんなに難しいことじゃないと思うんです。ただ、そこにどうやってたどり着くか、となったときに、当日に話題に挙がった、"2つのボトルネック"が現れる。

八木 : 1つは「国や行政による規制」で、もう1つは「人材」でしたね。

山本 : どの業界でも新しいことを始めて、シェアを拡大しようと思うと、この2つのキーワードがすぐに出てくるということは、やはりそこが根源なのだと思いましたし、この2つをうまくやりくりした企業が勝つのだろうとは思いましたね。

山本竜馬氏(OYO LIFE)

八木 : 前者(国や行政による規制)は、新しい価値創造の阻害となっている規制にどう向き合うか、という話でした。ただ僕自身は、規制はあれども、デジタル時代で新たに生まれた顧客データを社会に開放すること自体が、新しい価値創造につながっているとは思っています。それは、OYO LIFEのコンセプトとも合致していますよね。

議論の場でも、社会制度の変革を待っているだけでは間に合わないから、"顧客起点で喜ばれるサービス"をまずは先に作って、そこを起点にして制度変革していく順番もあるよね、と話し合いました。

山本 : はい、盛り上がりましたね。


ぐちゃぐちゃでもいい。エキサイトメントで突破する

八木 : 一方、後者(人材のボトルネック)では、人材の流動性が低いことが日本の社会変革や、新しい価値創造のスピードを遅くしているのではないか、という課題の提示がまずありました。それを受けて、人材評価は業界や企業を超えた"共通言語"で運用されるべきじゃないか、という話も飛び出して。

その点、貴社は人材について、どうお考えでしょうか。

山本 : やはり、人材と組織がビジネスの限界を決めますし、エキサイティングに動くビジネスそのものとも言えるので、まずはそこから作らなきゃいけない、とは思いますね。

OYO LIFEの場合、「石橋を叩いて渡る」の真逆を行く企業なんです。

オンラインのみで賃貸をやるには、あらゆる規制や法律の問題をクリアする必要が出てきます。また、そもそも不動産ビジネスをやるのに必要な、企業としての信頼性など、あらゆる土台がわれわれにはなかったので、一からのスタートでした。ただ、そこをある意味で気にせず、勢いで進めたことが、この企業の価値だとも思っています。

「賃貸はオンラインでやったほうがいいじゃん」って、誰でも考えると思うんですよ。だから、発想自体には真新しさはない。ただ、それを実際にやるかどうか。リスクもあるし、見えない部分も多いし、「あっちの方向、真っ暗っぽいけど、それでも行ってみようよ」って進んできたのが、一番大きくて。

八木 : (笑)

山本 : おそらく同じことを100社がやったとしたら、ほぼ100社が、慎重に丁寧に進めると思います。そして開始して1年後の姿は、ようやくオンラインの契約のあり方が見えてきた、あたりのステージだと思うんですよね。常識的なスピード感ってそんな感じだと思います。

でも、われわれは創業して1年が経った今、すでに多くの物件を確保して、どんどん消費者と賃貸契約をして、市場を動かしている。

なので、基本、そこに魅了された人材が集まってきています。良い人材を集めるために報酬を考えたり、エージェントを使ったり、アプローチは多くあると思いますが、本質的にはやっぱり、「限られた時間の中で何ができるのか」というエキサイトメント(興奮)がないと、人材は集まらないと思っています。

八木 : とても本質的ですね。

顧客に届けたい価値やスピード感に共感して集まってくるメンバーがいて、でもすぐには実践できない人や、悩む人も出てくるとは思います。そのあたり、登り方にも何か工夫はされていますか?

山本 : 何でしょうね。今いるほとんどのメンバーは、大企業出身なんです。Googleであったり、Appleであったり。成功した企業からやってくるので、やっぱり最初は美しい仕組みやプロセスを期待するんですけれど、まったくどこにもないので、そんなものは(笑)

だから、そのぐちゃぐちゃ感を味わってもらうためにも、入社前から徐々にメンバーに会ってもらって、OYO LIFEを感じ始めてもらう。いきなりフルタイムでなくて、徐々に慣れてもらうということはやっています。

あとは、特にリーダーに関しては、やはり会社の顔になってもらわないといけないので、入社前から入社後のチームを自分で作る意識を持ってもらう。将来自分のチームのメンバーになる人材とも会ってもらって、会社を語り始めてもらっています。

八木 : 面白いですね。

山本 : 「わが社はこうなんです、まだ働いたことないんですけどね」、なんて言いながら入社する候補者に会っています(笑)。そうやって、入社前からリーダーとしての意識を醸成しているのは、けっこう大きいと思いますね。


お客さまの声は、マネジメント全員で

八木 : なるほど。そこに、お客さまの声を有効に使う仕組みはありますか?

山本 : お客さまの満足度や、サービスを使っていただいたご感想は、一番大事なインプットだと思っています。

中でも大事なテーマは、どこまで一人一人に対してフィットしたサービスを提供できるかだと考えているので、お客さまのお問い合わせは、電話やメールやアプリは当然のこと、LINEや、TwitterなどSNSのDMでも受け付けますし、どれ経由でもいいですよ、というスタンスで対話しています。

そして、そこで発生した問題や、お客さまからのリクエストは、すべてチケットを切って管理します。お客さま一人一人の様子も見ながら、チケットには優先順位のランクを精緻につけて、重要な問題から解決していきます。

カスタマーサービスのリーダーも、私も、マネジメントする全員が、今日現在、もっとも重要な問題が何個あるのかをチェックしていますし、具体的に中身を見て、何が起きているのかの詳細も把握しています。

なので、お客さまの声がコンタクトセンターだけで処理されている大企業の世界観とはまったく違いますよね。

八木 : なるほど。顧客との対話や、チケットの書き方などに工夫があれば、それも教えていただけますか。

山本 : さすがにチケットすべては見られないんですけれど、「ランダム・インスペクション(調査)」は必ずやっています。私含めて数人のマネジメントが、お客さまの声を、こちらは優先順位関係なくランダムに直接、確認していく。

例えばお客さまからの声から何か問題が発覚したとして、ほとんどの社員は言い訳できるんですよね。会社がおかしい、あの部署が機能してないって。ただ、マネジメントの人間だけは、言い訳ができない。

その、"言い訳ができない人間が必ず見る"、ということがすごく大事だと思っています。そこを失ってしまうと、現場のコンタクトセンターの人たちが、「まだこの問題解決していないよね、おかしいよね」と会話して終わってしまう。

八木 : お話、すごく腹落ちします。

山本 : やはりお客さまの声にこそ、問題の本質はあると思うんですよ。

例えば、「なぜこのお客さまは、エアコンが壊れて1カ月も待っているのか」を追うと、管理会社との間で責任が不明瞭になっていたなど、本質的なビジネスの課題が見えてくる。

実際は、どんな大企業のマネジメント層でも、お客さまのシリアスな声を1日に2〜3件見ることぐらいはできると思うんですね。あとは、怠らずにいつまでできるかだとは思います。


まずやってみる。その実践ファクトが道を拓く

八木 : 心に刻みます。では、もう1つのボトルネックについても教えてください。新しい事業を始めるとき、社会制度や規制の壁にぶち当たるという話です。

山本 : そこは、取り組み方の話ですよね。

まず規制上、グレーなことは絶対にやらないのはマストです。ただ、どんな規制や商習慣にも明文化されていない、あるいはシビアには定義されていない領域があります。新しいビジネスをやる新しい企業は、結局のところ、多くがそのような領域にチャレンジしていると思うんです。

未定義の部分に対して、じつは「問題ない」と明文化しても良いじゃないかと思える箇所は必ずある。そこはあまり忖度せず、怖がらず、リスクを取って挑戦する。そのことに尽きる気がします。

八木 : まずは、やってみる。

山本 : はい。ここはスタートアップの利点だと思いますが、新しいものを作ろうという気概を持ったメンバーが多いので、まずはやってみようよ、と。もちろんリーガル担当とは真剣に議論をして、徹底的にリスク管理はした上で、ですが。

あとは結果を受けて、「イマイチだったな」と思えば、すぐ変えます。そうしてPDCAをすばやく回して、一つ一つケースを作っていって、ある日、規制を管理している側や、商習慣にこだわりの強い人たちから見たとき、「悪くないね、明文化しようか」って思ってもらえる土壌を作っている意識です。

八木 : 構想をキッチリ作るより、まずは形にしてぶつけてみるのが大事、と。

山本 : やっぱり規制や商習慣を決めている側の人たちも、ファクトがないと議論しようがないと思うんですよ。なので、いろいろな業者から「変えるべき」と言われたときに、変えてもおかしくないというファクトはもうそこにある、という状況をこちらで作ってしまおうとは思っています。

八木 : すごく面白いですね。

では最後に、OYO LIFEの今後の展開をお聞かせいただけますか。

山本 : はい。われわれは賃貸から始めていますけど、大きなビジョンとしては、衣食住の中の「住」を、新しく変えていきたい思いがあります。それには、まずは部屋の提供が一番の土台なので、今はそこからやっているところです。

ただ、当然、お客さまは部屋を借りた後に、いろいろなものが必要です。今はとりあえず、スタンダードの家具一式を入れるか、入れないかの2択だけですが、近い未来には、必要な家具や家電をスマホで簡単に選択できて、ボタン一つで、まとめてポンと家に届けられたらと思っています。

やっぱり標準的な家具一式では不十分だというお客さまの声がたくさんあるんですね。例えば、「ベッドは自分で買いたい」とか、「掃除機はダイソンがいい」とか。細かなニーズがあることは明確にわかっているので、家具家電のテーラーメイドサービスはやりたいです。

あとは、引っ越し時に手間のかかる、サービスプロバイダごとのやりとりを、われわれがすべて一括することで、お客さまの負荷を減らせるような世界観も模索しています。

八木 : すばらしいですね。リリースを楽しみにしています。

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