世の中がデジタル中心に変化する中で生まれた、新しいコンセプト「カスタマーサクセス」。
あらゆる業種において、「売って終わり」ではなく、「いかに長く使い続けてもらうか」を重視したサービスの提供が重要となり、リテンションマーケティング支援へのニーズも高まっています。
電通デジタルは、2019年11月、トレジャーデータ、パーソルプロセス&テクノロジー、アンダーワークス、およびNODEと協業し、企業のリテンションマーケティングを支援するサービス「カスタマーサクセス・プロトタイピング」の提供を開始しました。
リテンションマーケティングへの注目が集まる中、サブスクリプション型サービスの導入を検討している企業も増えていますが、新しいサービスの立ち上げに難しさを感じている担当者も多いようです。
第12回の当コラムでは、「カスタマーサクセス・プロトタイピング」協業社の1社で、企業変革の現場で実践推進している株式会社NODEディレクターのおふたりに、最近携わった事例から、カスタマーサクセスの視点を取り入れた新規事業の立ち上げ方、カスタマーサクセス実証実験の中身、そこから得た学びを聞きました。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
サービス立ち上げは今、PDCAを高速で回す実践型に
豊永泰士(以下、豊永) : 今日は、合田さんの手がけた「カスタマーサクセス実証実験の最新事例」を、私が聞き手としてインタビューしたいと思います。まずは取り組みの概要からお願いします。
合田未怜(以下、合田) : はい。最近はBtoBか、BtoCかを問わず、新たにサブスクリプション型サービスをローンチする際にお声がけいただき、サービス立ち上げのご支援をするケースが増えてきました。
先日私がご支援した大手メディア企業が検討していたのは、"次の一手"となるBtoBサービス。全社的な期待が大きい一方で、ターゲットとそのニーズが不明瞭、しかもその企業自体はこれまで売り切り型のサービスが主流だったため、売った後にいかにお客さまをサクセスへ導くか、いわゆるカスタマーサクセスの考え方が浸透していない状況でした。
既存の事業部からの協力は得られにくいが、一定のシステム投資や組織化は必要。ただし、投資をしても成果が出るかわからない状況なので、大規模にサービス立ち上げはできない、というのが悩みでしたね。
豊永 : それはどの企業でもぶつかる壁ですね。そんな中、どのように推進したんですか?
合田 : 100点満点の40点でもいいので、とにかくサービスを利用するお客さまの課題・ニーズを把握し、それに対してどのようなサービスを届けるとよいかの仮説を立てて、実際のお客さまを相手に短期間で検証を繰り返すことを、3ヵ月くらいかけてやりました。
豊永 : 市場調査など、事前の分析をしっかりやってからではなく、いきなりお客さまに試したんですね。
合田 : はい、一般的には豊永さんが言うアプローチが主流だと思います。ただ、どんなに時間をかけて分析しても、本当に合っているのかは、やはり事前にはわからないですよね。実際にローンチしたら、全然想定と違っていたという話はよく耳にします。
だったら、まずはクイックにサービスを作って提供し、お客さまのフィードバックから学んだほうが圧倒的に早い。
ちなみにほぼ間違いなく、最初はうまくいきません(笑)。でも、その失敗により、「なぜ当初の想定が外れたのか」がわかり、それをもとにお客さまが抱えている真の課題やニーズが把握できて、それに対するサービスのあり方が見えてくる。結果的に、短期間で成功確率を高められると思っています。
スタートアップが失敗する理由Top10(出典:CB Insights)
豊永 : 支援したメディア企業での実証実験は成功したんですか?
合田はい。ターゲットやサービスのあり方、営業や伴走のアプローチもクリアになり、実証実験にご協力いただいた後、実際に契約してくださるお客さまも現れました。
「一気通貫した仮説立案」と「実証実験」が成功の鍵
豊永 : 新しいサービスの立ち上げ時、「具体的にどう進めていいのかわからない」というお悩みをよく伺います。具体的にどう進めると、うまくいくのでしょうか?
合田 : 最初に、サービス・業務・システムを一気通貫でどう構築すると成功するかの仮説を立てることが重要です。
そして仮説を立てたら、ターゲットに合うお客さまを探し、「活用のためのご支援をしますので、代わりにサービスへのフィードバックをください」と厚かましくお願いしながら(笑)、実際に検証できる環境を作ります。
それから、実際のお客さまの利用状況を常にウォッチし、何が想定どおりで、何が想定と違うのかの検証をしつつ、並行してサービス改善を実行します。そして、それを再びお客さまで検証する。そんなPDCAサイクルを高速で回して、サービス・業務・システムを成果の出る形に磨き上げていきます。
今回のメディア企業の場合、最初の仮説立案は2週間程度、同時に1週間程度で顧客リストや必要なコンテンツを整理し、その後の約3ヵ月間、複数のお客さまでサービス検証を回しました。
豊永 : 最初の仮説立案は、どんなことを意識して行っていますか?
合田 : 一般的には、たとえばシステムだけ、業務施策だけ、と領域を限定して仮説を考えることが多いと思うのですが、それだと、いざビジネスとして捉えたときに、途中で混乱が生じてくると思うんです。
最終的にはお客さまのサクセスと、事業の双方に意味がある形で、サービス・業務・システムは連動して立ち上がらないといけないので、そのすべてを一度見通して仮説立てをします。
豊永 : さっき仮説立案に2週間と話していました。短期間で、一気に整理した後はどう進めていきましたか?
合田 : 仮説を立てる過程で、初期ターゲットや提供する顧客体験、そのために必要な施策が定まってくるので、検証の準備を並行して行います。そして準備が整った段階で、さっそく実際のターゲットとなるお客さまに実践。当初の仮説が正しいか、明らかにしていきます。
今回ご支援したメディア企業では、初期ターゲットになるお客さまに対しての提案書を作成。実際にクライアントであるメディア企業と一緒に営業活動をしました。また、その後のトライアル期間中には、カスタマーサクセスのために講習会や遠隔フォローを実施。どうすれば本当にお客さまの課題に応えられるのかを、現場で明らかにしていきましたね。
プロジェクトメンバー全員が自律的に動ける体制作り
豊永 : 最初から100点満点のアプローチはできない。正解がわからない中で、提供価値や施策の精度を高めていくことがサービス立ち上げには重要ですね。では、実際のプロジェクトでは、どのようにPDCAを回していったのですか?
合田 : あらかじめ検証の中身や、それに伴う役割分担を明確にしたうえで、高速でPDCAを回していきました。
具体的に言えば、「サービス方針レベルでのPDCA」「施策レベルでのPDCA」「個別お客さまごとの応対のPDCA」の3つのPDCAを回すため、プロジェクト推進体制とメンバーの役割分担を整理。それぞれお互いにフィードバックしあう形で、精緻化を行っていきました。
豊永 : 役割分担をかなり明確に行うんですね。一方、あまり細かく分担をすると、連携もしづらくなると思います。成功のポイントはどこにありますか?
合田 : 各メンバーが自律的にPDCAを回し、責任をもって役割を果たすこと。そして、相互にコミュニケーションをとり、時には一緒になって推進すること。この2点が大きなポイントですね。
豊永 : 自律的なPDCAというのは?
合田 : 各人の責任範囲において、各人の判断でPDCAを実行することです。
一般的な複数部署が携わるプロジェクトは、現場で発生したトピックを、週次ミーティングで進捗報告。マネジメントが検討して、現場に指示を出すような進め方をしていますよね。
でもこの場合、現場に指示が下りてくるまで、2~3週間くらいかかってしまって、スピードが担保できません。
そこでわれわれは今回、各人の責任範囲においては、よほど判断に迷うこと以外、各人の判断でPDCAを回せるように設計しました。
現場は、「個別お客さまごとの応対のPDCA」を日次で回す。現場の状況を聞いたミドルマネジメント(中間管理職)は、「大きなアプローチレベルでのPDCA」を週次で回す。その状態を俯瞰したマネジメント(経営層)は、「サービス方針レベルでのPDCA」を回して、ターゲットや顧客体験、サービス開発のロードマップをアップデートしていく。
そういった形で推進すると、失敗から学びやすくなるので、当然、精度は短期間で高まりますし、全体の方針から、現場の個別応対まで、顧客を軸にシャープに磨かれていくことになります。
しかも、個々人が自分の頭で考えてアップデートしていく中で、スキルも飛躍的に向上。結果、スピードと精度の両方を担保できるようにもなりました。
豊永 : なるほど、すばらしいですね。メンバー間連携はどうしたんですか?
合田 : ミーティングは常に行っていました。対面でのミーティングだけではなく、Slackなどの非同期コミュニケーションも駆使しながら、随時スピーディーに。
ただ、一番有効で重要なのは、関わるメンバー全員が実際にお客さまのもとへ行き、自分たちのサービスやサポートがどのように受け入れられ、反応されるのか。苦情や不満も含めて、実態を見ることに尽きると思います。やるべきことが見えて、おのずと連携が取れていきます。
百聞は一見にしかず。やはりお客さまの声が、もっともリアリティがあって、気づきも多いので、私の担当しているクライアント企業には、どんな役職者であっても、必ず数回はお客さま先に同行していただくようにしています。
豊永 : 現場を知ると、連携が早くなる。
合田 : そうです。実際のお客さまの使い方や評価のポイントを目の当たりにすることで、全員に共通認識が生まれるからです。
サービスやサポートが本当にいいものになっているか。たとえば利用データを見て、なぜその結果になっているのか。改善の勘どころをつかみやすくなります。
豊永 : なるほど。共通のお客さま像を起点に、各人が各人の責任を果たすから、齟齬なく、改善が進むんですね。
小さくても確実な成果が、納得感あるグロースを生んでいく
豊永 : そうして一定の成果が出た後は、順調に立ち上げが進むものですか?
合田 : はい、チームの活動はやはりスムーズになりますね。各人がみずから経験して、やり方を体得していますから。ただし、それを全社にグロースさせるとなると、いかに効率化するかという新たなテーマが出てきます。
豊永 : 組織化とその拡大が、推進上の次のテーマになるんですね。
合田 : はい。あとは他部門と協力して推進する場面も増えます。そのときに、どう協力関係を作っていくのかも重要になってきます。
豊永 : どのように進めるんですか?
合田 : まずは成果をもって、ご納得いただくことからですね。
最初にお話ししたように、どの企業でも、成果が出るかどうかわからない段階の投資が難しいのは、そのとおりだと思います。そこを、実証実験で得た成果をもとに、安心して投資を進めていただける状態にすることが、全社展開の鍵だと思っています。
豊永 : ただ、成果が出たとは言え、これまでのアプローチとは異なるものを組織に大きく展開するのは難しい。
合田 : はい。これまでのやり方をいきなりガラッと変えると、組織は混乱しますし、負荷は高いです。また何より、既存のやり方がまったく機能しないというわけでもないので。
豊永 : そうですよね。うまく折り合いをつけていく必要があります。
合田 : はい。そういうときに私の場合はよく、部署横断のワークショップを行います。その時点の状況を踏まえてのベストをみんなで探る取り組みですね。
お客さまが何に満足するのか、そのために自社が何をすべきかは、すでに成功事例があるのでわかっています。そして、何よりクライアント企業自身が、お客さまのために何ができるかを日々真剣に考えてらっしゃる。なので、あとは今の状況下でどうお客さまに相対するべきかを具体的に考える場を設けて、各顧客接点の役割分担をしていくんです。
お客さまがどうすれば喜ぶのかを軸にして、自分たちの業務を見直す。その過程を経ることで、各部署の方々に納得感をもってご自身の業務に取り組んでいただけるのが、この方法のよいところだと思っています。
合田 : もちろん一朝一夕にできることではありません。が、現場で得た成果をもって、地道に進めていくことで、各企業の顧客起点のサービス、さらには事業の変革は成立させることができると私は信じています。
そして、そのための手法は確かにあるので、これからもクライアント企業やその向こうのお客さまと一緒になって、カスタマーサクセスのアプローチを推進していきたいと思っています。
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