2020.10.13

「ファンの愛」を科学するファンマーケティングの方法論

ファンの口コミによって売り上げが伸びる。ファンの熱量が商品を楽しむカルチャーを生み出す。ファンが新たなファンをつれてくる。ここ数年、こうした現象に着目したファンマーケティングが注目を集めています。

電通デジタルでは、ソーシャルリスニングを筆頭に、さまざまなデジタルデータを活用した独自の方法論をベースに、これまでに多くのクライアント企業のお手伝いをさせていただいてきました。

本稿では、電通デジタルのファンマーケティング施策について、ご紹介いたします。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

電通デジタル
ソーシャルメディア事業部

佐々木祥

ファンマーケティングとは何か?

ファンマーケティングとは、ブランドや商品、サービスのファンに着目し、彼/彼女らと密接にコミュニケーションをとることで、「中長期的な売り上げの増大」や「ブランドやそのカルチャーの共創」を図るマーケティング方法、またはその概念です。

ブランドや商品、サービスへの愛が深い顧客は、ブランドスイッチが起きにくいという特性を持っています。商品やサービスへの興味関心、購入意欲も長く続き、周囲への発信もデジタル/アナログ問わず積極的に行うため、新たな顧客を獲得してくる機会も多いという特徴があります。

ファンマーケティングは、ファンの「愛」を共振・増幅させ、共感を育み、ブランドとの関係を継続させる、ブランドコミュニケーションの一種ということもできます。特にここ数年は、SNSの発展、サブスクリプションサービスの発達、中長期的には人口減少社会の進行(=新規顧客の減少)、といった環境の変化もあって、改めて「既存顧客=ファン」の大切さに気づくクライアントが増えていると感じます。

企業がファンマーケティングを実施することで、主に以下の3点の効果が期待できます。

  • 安定的に買い支えてもらえる
  • 熱量の高い「口コミ」で、新たなユーザーを連れてきてもらえる
  • 独特の視点や意見によって、商品・サービスが改善される

ファンにとって、自分が愛するブランドや商品、サービスを展開する企業のマーケティング活動に何かしらの貢献ができた、という"手ごたえ実感"を持つことは、嬉しいことでもあります。ファンに適切なアプローチをおこない、「企業にとってメリットになる行動」を促すことが、ファンマーケティングの大きなポイントになると思っています。


ファンをどう見つけるのか?

電通デジタルのファンマーケティングは、「見つける」「育む」「行動を促す」の3つのフェーズに沿って実施しています。

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はじめの一歩は、「見つける」。ユーザーの中から、ファンを見つけ、その属性やインサイトを分析します。電通デジタルでは、主に2つの方法から、ファンを探します。

ひとつは、クライアント企業が持つ1stパーティデータをもとに分析する方法。もうひとつは、ソーシャルリスニングによって見つける方法です。すでに会員組織などをお持ちの場合は、登録しているファンへの小規模なヒアリング会を設けるのも、ひとつの手段でしょう。今回は、ソーシャルリスニングによって見つける方法をご紹介します。

ソーシャルリスニングとは、SNSのデータを収集・分析を行うことで、ユーザーのブランドや商品、サービスへの認知や反応を確認したり、改善点を把握したりするための手法です。電通デジタルでは、目的に応じて適宜、最適なリスニングツールを使い分けています。

「ファン」の定義の仕方にはいくつもの考え方があり、購入・サイト来訪など「行動ベース」で階層分けする方法、ブランド好意度・推奨意向(NPS)など「意識ベース」で分ける方法、それらをかけあわせる方法、などさまざまです。

ファンを量的に把握する方法(1)

たとえばSNS上においては、「〇〇が好き」とつぶやいている回数が多ければ多いほど、ユーザーはそのブランドや商品、サービスのことが好きなのだと判断することができます。そこで、その発言頻度を「ラブ度」、フォロワー数を「影響度」とセグメントし、4象限マトリクスにプロットすることで、ファンを量的に捉えるという方法を採用する場合もあります。

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他にも、たとえば「好き」とつぶやく人と、「大好き」とつぶやく人では、後者の方がより「ラブ度」が高いと判断できそうですし、キーワードごとに「ラブ度」の軽重をつけていくこともできます。

ファンを量的に把握する方法(2)

また、つぶやく内容から判断できる行動によって、顧客を「潜在ファン」「ファン」「コアファン」の3種類に分類し、それらをピラミッドチャートにセグメントすることで、ファンの全体像を把握するという方法もあります。

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つぶやきからファン化するツボを探る

ソーシャルリスニングでは、ファンを定量的に捉えるだけでなく、つぶやく内容を分析することで、ファンの「インサイト」や「インタレスト」、行動を起こしてくれる「モーメント」を知ることもできます。

商品やサービスのどういった部分が顧客の琴線に触れたのかを、企業が自身の力だけで知ることは非常に難しいと思います。SNSには、企業が伺い知れない顧客の本音がたくさんつぶやかれています。その商品やサービスを購入した顧客がおもわず口コミしてしまうツボとはいったいどこにあるのか、どういった部分に共感するとファンになるのかを知るために、ソーシャルリスニングは非常に有効な手段と言えるでしょう。

これまでの取り組んできたファンマーケティングでの実績や、ソーシャルリスニング分析の知見から、ファンの「愛」が生まれるツボを10個に整理してみました。

  • 「ビジョン」「未来像」に共感する
  • 働く人たちの「人柄」を知る
  • 企業やブランドの「歴史」「背景」「文化」を知る
  • 作り手の「スピリッツ」を知る
  • 期待以上の「サプライズ」をされる
  • わすれられない「原体験」になる
  • 「帰属意識」をくすぐられる
  • 同じ価値観を持つ「仲間」に出会う
  • 自分の意志/やりこみの「手ごたえ実感」を得る
  • 自分の価値観や夢を「投影」する

これは、次項で紹介する「育む」に関わる話ですが、ファン化するツボがわかれば、今後は逆に、そのツボを押すためには、どんな施策を行うべきなのかということが見えてきます。打つべき次の一手がわかることも、ソーシャルリスニングのメリットです。

マーケティングリサーチには、アンケート調査、ネットリサーチ、グループインタビュー、会場調査、行動観察調査など、いろいろな手法がある中で、特に、本音の表れやすいソーシャルリスニングを大きな武器として使うことができるのは、電通デジタルの大きな強みです。


「育む」ためのアウトプットは多彩にある

ファンの愛を「育む」ためのアウトプット、すなわち顧客満足を高めるための施策には、さまざまなものがあります。

代表的なのはファンミーティングです。たとえば、社員との交流や、オフィスツアーのようなものから、商品開発会議、トークショーなど。また、会員制サービス/サブスクリプションサービスの実施や、オンラインサロン、Facebookのコミュニティなどのコミュニティ運営などもファンとの愛を「育む」方法として挙げられます。

しかし、そういった大規模なイベントやコミュニティ運営以外にも、ファンとの愛を「育む」手段があります。

それは、社員やアルバイトに根付いている「おもてなしの心」です。たとえば、任天堂の「神対応」や、ディズニーランドのキャストの感動的なおもてなし、スターバックスの店員によるカップへの手書きメッセージのエピソードを耳にしたことがあると思います。思いがけない心温まるもてなしがファンの心を刺激して、口コミを促す。まさに、愛を「育む」行為です。

そういった顧客満足を促すスタッフの育成、組織作り、接客マニュアル作り、ブランドブック作りなども、「育む」ためのアウトプットです。中長期的な取り組みで、かつ組織運営にも関わる話ではありますが、ファンマーケティングとして、非常に息の長い効果を期待できる施策でもあります。

また、企業が大切にしているスピリッツやカルチャーを伝えるための各種情報発信も、「育む」ためのアウトプットです。Webサイト、メルマガ、ムービー、記事にそれらの情報をオープンにしておき、興味を持って閲覧してくれた顧客が、自由にアクセスできるようにしておくことも大切です。

もうひとつ、企業やブランドが、自身の目的・価値を社会に発信する行動や振る舞いである「ブランドアクション」。これはファンマーケティングの視点からみても、有効な手段です。
数々の社会課題に、そのブランドはどんなスタンスで行動するのか。一見地味なアクションであったとしても、その行動が共感を集めれば、たちまちSNSユーザーに拡散されていきます(その逆もしかり)。この場合の愛のツボは、企業理念への「リスペクト」とも言えるでしょう。理念にリスペクトを抱いたファンは、その道を共に歩み、増幅してくれる強力な仲間になってくれるはずです。

時代や社会に、自分たちが貢献できる行動は何か? それを問い続けることが大切です。

以下に、「育む」ためのアウトプットをまとめます。

  • ファンミーティング/交流イベントの実施
  • 会員向けサービス/サブスクリプションサービスの構築
  • ファンコミュニティの運営(SNS、Web、リアルイベント、オンラインサロン)
  • 期待以上のサービスを提供するための人材育成/組織運営
  • 既存の広告へファン視点を導入
  • 企業カルチャーやスピリッツを伝えるための各種情報発信
  • 企業ビジョンに基づいたブランドアクションの実施

「行動を促す」ことで得られること

ファンを見つけて、愛を育んだら、次は「行動を促す」です。この「行動」とは、まずひとつにはファン自身による購買。もうひとつは、ファンの口コミと、その結果増えた新しい顧客による購買です。それらの行動を促すことで、企業には中長期的な売り上げ向上が期待できます。

意見や要望を直接企業に送るという行為も、「行動」に含まれます。ファンによる忌憚ない意見や要望は、社内で検討するだけでは得られない視座が得られ、マーケティングコストや広告コストの削減につながることもあります。こういった形でのファンとのコミュニケーションは、長期的にはブランドの浸透にも影響してきます。また、ファンの声を直接聞くことで、社員のインナーモチベーションの向上にも、効果があると考えられます。

まとめると、「行動」には以下の3つの行為が含まれます。その行為を促すための施策が、顧客のLTVと中長期的な売り上げの向上につながるのです。

  • ファン自身の継続的な購買
  • ファンによる口コミ・推奨を介した新規顧客の獲得と、それによる購買
  • 企業への意見、要望の提出

企業自身が取り組まなければ意味がない

ここ数年、ファンマーケティングへの注目度は高まっており、ご相談いただく機会もとても多いのですが、ひとつ事前にご理解いただきたいのが、ファンマーケティングは非常に息の長い取り組みだということです。短期な売り上げ貢献を目的とするキャンペーンとは違い、中長期的なスパンで、企業そのものの価値を上げていくことに貢献する施策です。

たとえば、「特定のコミュニティをつかまえて支持を集めたい」「ファンを集めて何かイベントをやりたい」といったご依頼だと、ファンマーケティングの本質からずれてしまいます。なぜなら、「一人ひとりに耳を傾け、丁寧に育む」という姿勢こそが、ファンマーケティングには必要不可欠だからです。

愛というのは、何度も確かめながら深まっていくものです。ブランドや商品、サービスに対する愛も、同様のプロセスをたどります。購入後のカスタマージャーニーのポイントごとに、顧客が愛を確認するポイントを設け、その都度、「やっぱり好き」という気持ちを確認してもらう。そうして段階的に愛は深まっていくのです。

何度も愛を再確認してもらうために有効な施策を、企業は長期的視野に立って戦略的に用意しておく必要があります。そのためにも、KPIを複層的に持つことが大事です。

以前、ある企業で聞いた言葉が非常に印象的で心に残っています。それは、「どんな些細なことでもいい、そこに"感動"がなければ、ファンになってもらえない」というものです。

人は思いがけないことに遭遇したときに、大きく心が動きます。カスタマーサービスに電話したときのオペレーターの受け答えがよかった、お店に返品に行ったら店員の接客が丁寧だった、取扱説明書を読み返したらとてもわかりやすかった。コンタクトポイントでの小さな意外性の一つひとつがファンの愛を育むことに、企業はもう少し自覚的でいるべきだと思います。

もうひとつ重要な点に、いわゆる広告案件と違って、完全な外注はできないということが挙げられます。ファンと触れ合えるのは企業自身だけであり、企業がファンと触れ合う覚悟を持たなければ、ファンマーケティングは始まらないのです。もちろん、われわれはそれを実施するためのバックアップは惜しみませんし、そのためのさまざまなソリューションもご用意しています。


愛を科学するのがファンマーケティング

とにかく、流行り廃りの激しいデジタル業界において、「ファンマーケティング」という言葉も、バズワードと捉えられる見方が少なくありません。しかし、私自身は、そうは思っていません。

現在は、既存顧客だらけの社会です。自社の見込み顧客は、すでに他社の既存顧客であることが多いですし、あるサービスの新規顧客はかつての自社の別サービスの顧客かもしれません。そういった中で、他ブランドや商品、サービスと差別するものは何かとなったときに、キーワードになるのは「愛」です。

ファンマーケティングを実施するに当たっては、ファンの支持や、ブランドの生まれた理由を自覚しながら、それに対して適切な形で応えていく意識を持つことが重要です。

ユーザーの「好き!」というツボを押してファンになっていただくには、なぜ自分たちが愛されているのか? ということを明確に知らなければなりません。「なんとなく私たちのブランドって愛されているよね?」という理解では、ファンの愛に応えることはできません。

私は、ファンマーケティングとは、「愛を科学する」ということだと思っています。「自分たちのブランドはなぜ愛され、どういったツボを押すと、よりその愛が大きくなり、その愛ゆえにどんな行動に出るのか」。そういった心の動きを曖昧なままにせず、筋道を立てて見ることで、愛もマーケティングの大事な要素になりえると思っています。

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