2022.03.10

顧客体験ファーストを実現する 顧客基点のクロスファンクショナルチームの立ち上げ方

コト消費の時代と言われる現在、顧客体験ファーストを実現するには、商品やビジネスモデルだけでなく、組織も新しい時代に向けて変革する必要があります。そこで改めて注目されているのがクロスファンクショナルチーム(CFT)です。本稿では、CFTの立ち上げ方と進め方、CFTによる顧客基点文化の醸成方法を、ビジネストランスフォーメーション部門 髙山隼佑が説明します。

※この記事は、2021年11月24日~26日に開催した「DX Conference Vol.1 by Dentsu DX Ground」のセッションを採録し、再構成したものです。
※所属・役職は記事公開当時のものです。

ビジネストランスフォーメーション部門
部門長補佐

髙山 隼佑

機能別組織では顧客ファーストを体現できない

現在の成熟社会において、消費はモノ重視からコト重視に移行しています。モノ(商品やサービス)は良くて当たり前、機能や性能では差が出ません。コト(体験)で差別化を図らなければ利益が増えず、企業は生き残ることが難しくなります。

一方で、組織の方はどうでしょう。以前のモノ消費時代に作り上げた、企画、商品、営業、契約、ITなど機能(ファンクション)別の組織のまま、という企業が多いのではないでしょうか。

顧客一人ひとりが、商品、営業、契約、Webサイトなど、企業が提供する全てを体験します。いくら会社が「顧客ファースト」「顧客基点」を掲げていても、企業ファースト、部署ファーストになりやすい機能別組織では横断的に顧客に対応できず、顧客ファーストを体現できません。

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顧客基点クロスファンクショナルチーム(CFT)とは

顧客の課題解決を優先するために、横串のプロジェクト組織を導入して、硬直した組織を変えようとする企業が増えています。機能(ファンクション)をまたいでいる(クロス)ので、「クロスファンクショナルチーム(CFT)」と呼ばれます。

CFT自体は以前からある考え方ですが、ポイントは顧客課題が基点となった横串の組織という点です。製品や商品課題の横串ではなく顧客基点でないといけません。顧客基点CFTがうまく機能すれば顧客を理解できるようになり、社内に顧客基点が浸透し、マーケティングがうまく回ることになるのです。

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顧客基点CFTはそれ単独で導入してもうまくいきません。新たな企業文化を形成する変革の一環として取り組みます。

  1. 顧客基点&DX&アジャイルの理解/体験
  2. DXビジョン/パーパスの策定
  3. 顧客課題に基づいたCFTの決定
  4. 組織変革
  5. 人財確保
  6. ガバナンス策定と施行
  7. 啓蒙/教育/育成
  8. データ基盤整備
  9. 顧客課題解決の各プロジェクト(PJ)を実施

本稿では、CFTの立ち上げ方(3.顧客課題に基づいたCFTの決定)と、CFTの進め方(9.顧客課題解決の各プロジェクトを実施)について詳しく説明します。

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顧客課題に基づいたCFTの決定・立ち上げ

顧客課題に基づくCFTの立ち上げにはカスタマージャーニーを用います。このカスタマージャーニーは顧客がまだ企業を知らないところから始まり、商品やサービスを購入、リピート購入し、ロイヤルカスタマーとなるまでを書く、長期間で壮大なカスタマージャーニーです。人類がアフリカで誕生し長い年月をかけて南米の最南端まで広がった道のりをグレートジャーニーと言いますが、それをなぞってグレートカスタマージャーニーと私は呼んでいます。この「グレートカスタマージャーニー」(下図)を使い、顧客のペインポイント(悩みの種)や社会課題をあぶりだし、ソリューションとゴール(KGI)を考えます。

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ソリューションとゴールが固まったら、最適なチーム単位を意識し、CFTの数と優先度を決めます。優先度は、ビジネスリスクとビジネスインパクトの2軸で考えると良いでしょう。リスクが少なくてインパクトが高い課題を高優先度とし、チーム化していきます。チーム化では、立ち上げ時期や順番をロードマップに落とし込み、経営会議にかけます。そこで人をアサインして組織化し、CFT(横串プロジェクト)を立ち上げる、という流れです。

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顧客基点CFTによるプロジェクトの進め方〜いかに顧客に共感するか

顧客基点CFTの中で実際にプロジェクトを進める際のポイントは、いかに顧客に共感できるかです。顧客基点とは顧客に共感することと言えますが、どのようにして共感するのでしょうか? ここで紹介したいのが、顧客に共感するためのフレームワーク「ダブルダイヤモンド」です。

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ダブルダイヤモンドは、「正しい問題を見つける」と「正しい解決策を見つける」、2つのダイヤモンドで構成されており、各ダイヤモンドは「発散」と「収束」という2つのステージを持っています。

「正しい問題を見つける」ダイヤモンドでは、「ユーザー理解」から「課題の特定」へ、「正しい解決策を見つける」ダイヤモンドでは、「解決策の立案」から「施策の実施/検証」へ、発散と収束を繰り返しながらプロジェクトを進めます。

顧客基点CFTのプロジェクトではワークショップでアイデアの発散と収束を行い、そのアイデアをリサーチにかけます。これを2、3カ月という短期間で形にしていきます。

ペインポイントを見つけて整理

施策開発のフローは、「セグメント/ターゲット検討」「ペルソナ/カスタマージャーニーマップ(CJM)とアイデア検討」「ユーザー調査」「ペルソナ/CJMの修正とターゲット決定」「ユーザーシナリオ作成」「プロトタイプとユーザーテスト」と、これまでと同じような流れですが、プロジェクトの進め方とスピードが異なります。

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例えば、「ペルソナ/カスタマージャーニーマップ施策とアイデアの検討」では、われわれのような外部協力会社だけが考えるのではなく、クライアントの皆さまとワークショップをしながら作成します。ここでのポイントは、ワークショップで出てきたペインやアイデアをそのまま使わないということです。ペインツリーやマトリックスなどで出てきたペインやアイデアを整理して構造化し、見つめ直すことが大切です。これにより、解決すべき真のペインが見えてきます。

ユーザーの意見を全工程で取り入れる

ペインポイントから解決アイデアが出たら、「プロトタイプと検証」に進みます。プロトタイプはデザイナーやコピーライターと作成し、作ったらすぐにユーザーの反応を確認します。われわれがお手伝いしている場合は、弊社内の別のプロジェクトメンバーに見せます。そこで反応を見て改良を加え、完成レベルに近づいたら調査会社のパネルや自社顧客に見せて反応を見ます。その反応を取り入れて再度修正し、それをまた弊社内の別のメンバーに見せます。この流れを繰り返して、ユーザーの意見をどの工程にも入れるようにします。

ポイントは、チーム内だけで考えるのではなく、「作ったものをユーザーに近い人や実際のユーザーに見せる」「そこから得られた声をプロトタイプにフィードバックする」ということを、どの工程でも繰り返すことです。社内で上申するために資料やプロトタイプを作ると、どうしても作りやすいもの、通りやすいものができてしまいます。上申のために作るのではなく顧客のため、という点をしっかり意識することが大切です。

共感力がなぜ重要なのか?

共感力は、課題解決能力の原点です。相手が何に喜び、何に悩んでいるのか、相手の立場からメリット・デメリットを把握する力、それが共感力です。共感する能力が高ければ、相手を自分に共感させることができ、相手から支援を引き出すことに貢献します。また、共感能力が高いと社会課題を適切に捉えることができるため、共感力はイノベーション教育で最も強調されるものの一つになっています。さらに、デザイン思考のプロセスも、共感から始まります。ユーザーのペインに共感することにより、今までにないアイデアやソリューションを発想することができるのです。


チーム作りのポイントは多様性

横串組織である顧客基点CFTは、営業、企画、Web、店舗など、各部署から参加者を集めるため、多角的な視点を持つチームになります。ここでおすすめしたいのが、われわれのような外部メンバーを取り入れることです。

外部メンバーを入れるメリットは、外部メンバーがユーザーの声の代わりになるからです。外部メンバーが常駐、あるいは半常駐としてチームに在籍することで、顧客目線を得やすくなります。電通デジタルの場合、UI/UXプランナー、デザイナー、コピーライターなどがクライアントのCFTに参加しています。

多様な人間でチームを作る多様性のメリットは、イノベーションに有効と言われています。メンバー同士の価値観が異なる「多様性型」のチームでは、同じ問題や出来事に対して異なる意見、アイデアが生まれ、それがイノベーションの起点になるのです。イノベーションを求めるのであれば、意識的に多様性のある組織を作る必要があります。

ウォーターフォールではなくアジャイルで

プロジェクトの進め方は、縦割りの組織でよく採られているウォーターフォールではなく、アジャイルで進める必要があります。

顧客体験を向上させたり、新しいものを作ったりする野心的なプロジェクトの場合、通常業務より不確実性が高くなります。不確実性が高いと反対意見も起きやすく、斬新なアイデアも次第に丸くなっていき、途中でコンセプトを見失うなど、ウォーターフォール型との相性はよくありません。

一方、アジャイルはスピードを重視します。良いものができるまで待つのではなく、期日が来たらその時点の成果物を出すと決めて進めます。良いものを求めるといつまでも仕上がらない、という考え方です。

アジャイルではユーザーテストの回数が多いことから、プロジェクト後半に品質が飛躍的に向上します。ユーザーが求めているものを作れているという実感が得られます。

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アジャイルの利点は数字にも表れています。あくまで電通デジタルのクライアントの例ですが、アジャイルで進めた場合、コンバージョン率が2倍になった、売り上げが3倍になった、デジタル利用率が数倍向上した、などといった成果が出ています。このような実例からも、顧客を理解し、顧客基点でアジャイルに進めた施策は、成果が出やすいと実感しています。

顧客基点のCFT導入は、企業文化を顧客基点に変えるきっかけになります。組織変革、エクスペリエンスデザイン、アジャイル、イノベーション理論にご興味があれば、ぜひ電通デジタルにご相談ください。

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